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「安藤正純の特別コラム vol.26」
能力と適応力、フリングスには何が欠けていたのか?
安藤正純=文・写真
text & photograph by Masazumi Ando
2005年12月02日
W杯に向けた代表チームの最終メンバーが決まりつつある。これまでクリンスマン監督に招集された選手は全部で40人にのぼるが、フィットネステストや戦術、ケガの有無など現地の情報から総合判断すると、どうやら次のように振り分けられそうだ。一部の有力マスコミが伝えている。
「絶対確実に出場」=バラック、フリングス、クローゼ、メルテザッカー、シュナイダーの5人。
「多分、出場できる」=アサモア、ダイスラー、ポドルスキーら14人。
「ボーダーラインぎりぎり」=エルンスト、オボモエラ、ノイビル大帝ら6人。
「恐らく無理」=ブルダリッチ、ヴェルンス、ハンケら7人。
「チャンスはゼロ」=ハマン、ラウト、ゲルリッツら8人。
注目のGK争いだが、カーンとヒルデブラントは「多分、出場」に入り、レーマンは「ボーダーライン」だ。
この中で注目したいのはフリングスである。昨季、フリングスはバイエルン・ミュンヘンで"黄金の中盤カルテット"を構成する重要な選手として大いに期待された。右にダイスラー、左にシュバインシュタイガー、トップ下にバラック、そしてボランチにフリングス……。
この強力無比な布陣はそのまま代表チームでも受け継がれるものだと思われた。だがフリングスの深層心理を見抜いていたバイエルンのルンメニゲ会長とヘーネスGMは、「とても、そんな布陣は築けないだろう」と冷ややかな反応を見せていた。
ヘーネスGMがフリングスの本性を悟ったのは、入団後、契約の話で2人が顔を合わせたときである。この時期、バイエルンはフリングスと同じベルダー・ブレーメンからDFイスマエルを移籍させようとしていた。移籍金は800万ユーロ(約11億2000万円)。フリングスの移籍金500万ユーロ(約7億円)を大きく上回る。
同時期、ヘーネスGMはDFサニョールと契約更新の話し合いを続けていた。2人の交渉は丁々発止、激しい論争を繰り広げながらも、お互いの言い分を主張しあった。会談でヘーネスはサニョールの精神的強さに関心した。厳しい条件闘争なのにサニョールは持ち前の頑固さと自分自身への誇りを示し、辣腕で知られるヘーネスにちっとも気後れすることがなかったからである。
だがフリングスは違った。「最初に話した瞬間に気がついた」とヘーネス。フリングスには苦しい場面や自分に不利な条件下で、サニョールほどの何物をも撥ねつける強い精神力が欠けていたのである。これは持ち前の性格とも関連するのだろうが、超一流のクラブに加われば鍛えることもできる部分のはず。だがフリングスは自分を向上させる意識が薄く、何が何でも徹底的に闘うという考えが沸いてこなかった。
「つねに自己の存在を証明しなければならないメンタリティーは、バイエルン全選手の基本であり哲学である」とするヘーネスには、フリングスの軟弱さばかりが目に付いた。
フリングスにはもう1つ別の問題があった。それは南部バイエルン州とミュンヘンに対するアイデンティティーの欠如である。ドイツ北西部の片田舎ヴュルゼレンで生まれたフリングスはアーヘン、ドルトムント、ブレーメンを渡り歩いたが、自らの発言の重さがどのような影響を周囲に与えるかは学んでこなかったようだ。よりにもよってバイエルンで、「マガート監督との関係は悪くない。だけど監督は僕の最大の理解者じゃない」と、信頼関係を壊すような発言を平気で行なったのだ。いったい、全34試合のうち29試合に先発出場させ、リーグとカップの2冠を達成させてくれた監督に向けて言うべきコメントだろうか。
ブレーメンに再移籍したフリングスは、バイエルンで味わったほど強烈なプレッシャーは感じていない。本人にとっては相当に快適な環境であろう。なにしろ、これだけの選手だ。レギュラーポジションを約束してほしいと主張すれば要求も通ることだろう。しかしバイエルンでは、「そんな保証は絶対にできない」(ヘーネス)のである。この差にフリングスは気づかなかった。
首位決戦のバイエルン対ブレーメン戦の前日、フリングスはミュンヘンの新聞のインタビューで次のように発言している。
「何人かの古い友人と会えるのが楽しみだ。とくに僕の身体をよく面倒見てくれたコンディショントレーナーとはね。チームメイト? あぁ、2〜3人はね。それだけさ。だって僕はバイエルンでな〜んにもいいことなんて感じてなかったんだから」
代表チームでフリングスは中盤の貴重な選手として重宝される。だが体力と技術で同等のライバルがいない偶然の環境は、彼に向上心を忘れさせたようだ。ブンデスリーガでそこそこの順位を保ち、得点力の多さを誇るブレーメンがなぜ、チャンピオンズリーグでこれほど惨めな結果に甘んじなければならないか、フリングスはじっくり考えた方がいい。
精神力の強さでつねにトーナメントを征してきたドイツは、バラックがすべての面における真のリーダーである。これは疑う余地がない。ではバラックを影で支えるのは誰か?フリングスではないか。
フリングスが安定した中盤の守備を担ってこそ、バラックは攻撃に専念できるのだ。肝心な場面でフリングスの弱気の虫がモソモソと動き出すなんて御免蒙りたい。そうなればチームはあっという間に崩壊してしまう。
だから私はこの選手を人一倍、応援したくなるのだ。バイエルンで出来なかったことを代表チームで見せてくれ、と。
そこで今回の結論。
超一流の選手とは、技術、精神力、勝利への無限の欲望の複合体である。
■オマケ■ 安藤正純のドイツ代表・W杯最終メンバー大胆予想
▲多分、出場できる
アサモア、ダイスラー、ポドルスキー、ボロフスキー、フリードリッヒ、ヒルデブラント、ヒッツェルスペルガー、フート、ヤンセン、カーン、クラーニィ、ラーム、メッツェルダー、シュバインシュタイガー
▲ボーダーラインぎりぎり
エルンスト、オボモエラ、ノイビル、ヒンケル、レーマン、シンキエビッツ
▲恐らく無理
ブルダリッチ、ヴェルンス、ハンケ、エンゲルハルト、イェンチュ、ケール、レンジング
▲チャンスはゼロ
ハマン、ラウト、ゲルリッツ、バウマン、フライヤー、イスマエル、ショル、シュルツ
(次回に続く)
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