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「安藤正純の特別コラム vol.21」
シャルケ04とクラーニィを見直したぞ
安藤正純=文・写真
text & photograph by Masazumi Ando
2005年10月04日
おそらく後世に残る名勝負である。チャンピオンズリーグのシャルケ04対ACミラン戦のことだ。前夜、ミュンヘンでバイエルン対FCブリュージュ戦を見ていたが、私の心はとっくにゲルゼンキルヘンに飛んでいた。
漆黒の闇に青光りする『ヴェルティンス・アレーナ』(旧名アレーナ・アウフ・シャルケ)は、アリアンツアレーナよりも収容能力、設備内容で若干劣る。しかし同じ新築でも"使い慣れた味"が染み込んでいる。地元ファンの愛情を具体化したらこうなるぞ、みたいな雰囲気が充満しているのだ。
青と白を基調にしたスタジアムは、緑の大地に見事なほど自然な風景として溶け込んでいる。それは、田んぼの真ん中に立つ神社の夏祭りに出かけるウキウキ感と共通し、スタジアムのドア、玄関、庭先の芝生は"自宅"のような安らぎを与える。スタジアム周辺はお祭りのように屋台が並び、アトラクションも用意されている。開門までの時間を退屈することなく過ごすことができるのは、パルクスタジアムやグリュックアウフの時代と変わらない。
そういう光景を眺めていると、ここは地域、ファン、自然、そして人々の"信仰心"が凝縮されているんだなぁと、思わず拍手を贈りたくなる。
ここらへんは、アリアンツがあと20年かけても追いつかない点だと思う。アリアンツはどこかよそよそしく、完成する前からすべてが合理的に計算された巨大な器である。壁に数字をペイントしただけの客席案内標識とコンクリートカラー特有の冷たさには、ここがアミューズメント施設でなく、機能一点張りの"本社ビル"の印象を与える。
Ticketの文字が光るイチジク浣腸みたいな形の巨大な風船(案内表示)を信じて当日券を買い求めても、窓口のオバサンに「当日券? そんなのは販売してない。アリアンツカード(場内で使えるプリペイドカード)だけしか売ってないわよ」と逆ギレされるのがオチだ。
なにしろアリアンツはVIP席が向こう5年間、年間シートも向こう3年間分が売り切れである。残った約3万3000枚の切符は、10万人もいる会員に優先販売されるので、当日券が出ることはほとんどない。だからダフ屋の少なさはドイツ1である。駅から10分、ひたすらUFO目指して歩くだけ。周囲に屋台を見ることもない。ソーセージを焼く臭いがないなんて、つまらないよなぁ。
さて、試合である。シャルケは前節のPSVアイントホーフェン戦で0-1の敗戦を喫した。負ける相手ではなかったのに、である。主だった選手がゴッソリと抜けて戦力の低下が著しいPSVに負けたことで、マスコミはラングニックの戦術の失敗を槍玉に挙げた。今度はホームである。相手は強豪のミラン。ここで負けたらグループステージ突破は難しくなる。
開始21秒、ガットゥーゾのスローインからダイレクトパスが3本つながり、セードルフがロングシュートを決める。うわっ、何というこっちゃ。早くも0-1じゃないか。しかし私は慌てなかった。イタリアのチームである。彼ら自身、こんな展開は苦手なはずだ。ここからあと2点も3点も取りにはこない。シャルケのチャンスはいくらでもある、と直感した。
その感覚の正しさは2分後に証明された。リンコンの巧みな技から上がったセンタリングが相手DFの足に触れてコースが変わる。待ち構えていたラーセンがヘッド。態勢を崩していたGKジッダの反対側の空間に吸い込まれていった。
ここから本当のガチンコ勝負が始まった。MFポールセンを軸にシャルケは攻守でミランを圧倒した。左サイドではMFコビアシビリが、右では新人DFラフィーニャがミランのベテランDFを切り裂いていく。この2人、ポテンシャルが高い。まだまだ伸びるはず。これから大化けするかもしれないのでよ〜く観察しておこうっと。
圧巻はDFボルドンの読みの深さとFWクラーニィの献身的な動きだ。とくにクラーニィ。もともと前線で身体を張ったポストプレーを得意としているが、ステップワークに難があるため、リターンして次の動作に移るまで時間がかかる欠点が指摘されている。
この日のクラーニィは「待つ」のをやめ、積極的にMFの位置まで下がり、相手ボールをカットしにいった。足をつるまで頑張ったクラーニィは73分で交代したが、無得点の彼は影のMVPである。
FWの守備はありがたいものだ。カカやピルロのボールを背後から奪いにいくことで、ミランは攻撃がまとまらない。FWジラルディーノにはほとんどボールが回ってこなかった。カカは苛立ち、打開策が見つからないよという表情だった。
そんな中でも絶対に注意を怠ってはならない選手がいた。シェフチェンコだ。DFがピタリとついていても、またダミーアクションがあってもなくても、いざ縦パスが来るや一瞬で抜け出してしまう。完全密着マークをしていないと、いつかやられるタイプの選手なのだ。ところがシャルケのDFは肝心なところでシェバをフリーにしてしまった。左サイドを駆け上がったDFマルディーニの右足に持ちかえてのセンタリングに、シェバが頭を合わせた。矢のようにゴールに突き刺さり、再びミランがリードを奪う。
あれだけ用心しなければいけない選手をシャルケは肝心な場面でフリーにさせていた。ヘディングの瞬間、シェバに一番近い場所にいたシャルケDFは何と4・5メートルも距離を置いていた。完全なマーキングミスである。
アウェーでリードを奪った。案の定、ミランは守備固めに入った。人数を集中させ、攻撃に色気を見せなくなる。ラルフ・ラングニック監督はここで最初のカードを切る。68分、動きの悪かった右MFエルンストに代えて、FWアルティントップを投入した。そのアルティントップ(カイザースラウテルンのアルティントップは双子の兄弟)がやってくれた。2分後に放った初シュートは30メートルのロングディスタンス。だがスピード、コースともGKジッダが反応を諦めるほどの威力があった。ボールは綺麗な弾道を描いてゴール左に吸い込まれた。
こうして2-2の引き分けに終わった試合だが、シャルケのドイツらしくないサッカーを見て、久しぶりにいい気分になった。
なにしろこれまで見てきたブンデスリーガの試合は「高く、強く、遠く」へ蹴り出す戦術が蔓延していて、面白みに欠けていたのである。テクニックを持たない選手を揃えたチームは、パワー・ファイト・ディスツィプリン(力・闘争心・規律)しか取り得がない。カイザースラウテルン、フランクフルトはその典型。ハンブルクもバルバレスが欠場した試合が正にこれだった。
なのでハッキリ言う。「HSVなんてブンデスリーガで優勝しちゃダメ!」――。日本人選手がいようが、そんなの関係ない。あんなパワーごり押しのサッカーなんて、欧州の舞台で通じない。選手は十種競技かプロレス界に転進したらいい。
バイエルンは選手に大金をかけているので、さすがにそうならないが、全体的に単調なテンポでプレーする時間帯が多いのが気になった。1-0の試合が4つも続いた9月中〜下旬は消化不良の展開で、私が大好きなハラハラドキドキがなく、とにかく理詰めで合理的な戦術が優先された。サニョールの足技、ルシオの切り込み、バラックの懐の深さ、カリミの柔らかさなど、局面で見所は十分にある。でもチーム全体だとひじょうにシステマチックで意外性に欠ける。流れがだいたい読めるのだ。
中盤から左右のスペースにボールを回し、ウイングのポジションから高いセンタリングを上げて、FWがヘディングでドーンなんていう展開はVSOP(very
special one pattern=古い駄洒落だね)だ。楽しくないのである。
それがシャルケだけは、リンコンがキーになって狭い局面でパスをつなげ、遊びの面白さが伝わってくるのである。クリエイティブとサプライズが加わるということは、まさにサッカーの醍醐味じゃないか。
テクニックは体力に勝る。テクニックは戦術とマッチングしてこそ相乗効果を生む、というのが私の考え方。シャルケを見て、この考え方が間違っていないのを確信した。そこで今回の結論。
私、実はシャルケのファンだったのです。
(次回に続く)
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