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「安藤正純の特別コラム vol.18」
絶望的な気分で見たシュツットガルト
安藤正純=文・写真
text & photograph by Masazumi Ando
2005年08月16日
8月2日からミュンヘンに住んでいる。イザール川のほとり、ドイツ博物館近くに建つ平均的なアパートを借りての生活だ。トラムの停留所までたったの10数歩、中央駅やマリーエン広場も少し頑張れば徒歩圏内という好立地。おかげで日本では出不精だったのが、ここでは毎日あちこちに出向いている。気温は20度前後、湿度は低い。ちょうど夏の北軽井沢か草津と同じ肌感覚。とても身体にいい。
到着した週末に、バイエルン対ボルシアMGの開幕戦、ケルン対マインツ、フランクフルト対レバークーゼンを金〜日で観戦。そして翌週はTSV1860ミュンヘン対ハンザ・ロストック、ニュルンベルク対ハノーバー96、VfBシュツットガルト対ケルンを、これまた金〜日の3連荘で味わった。
まだ6試合しか見ていないが、もっとも印象に残ったのはシュツットガルトの凋落ぶりだった。私はここ数年、シュツットガルトとミラノには必ず立ち寄って試合を見ている。だからチームの推移も分っているつもりだ。
数年前、ガリガリに痩せた選手たち(ヒンケル、ヒルデブラント、ティファート、クラーニィ)が瑞々しいプレーを見せていたのは、未だに強烈なイメージとして残っている。ここ4〜5年、VfBはずっと上昇基調で進んできた。マガート監督は辛抱強く若手を育て上げ、チームは年々強くなっていった。リーグ優勝まであと一歩のところに迫り、チャンピオンズリーグではあのマンUを完璧に粉砕するまで成長した。
だが思えば、2年前が絶頂期だったのだ。昨季は守備偏重のザマー監督がマガートの遺産をすっかり食い潰し、チームをリセットしてしまった。選手は息苦しさを感じていた。そして今季開幕前、VfBはクラーニィをシャルケに売り、ラームをバイエルンに戻し、フレブをプレミアリーグに移籍させた。
ザマーの解任は朗報だったが、その後任がいけない。ザマーを上回る守備至上主義の老人を据えたのだから…。よりによって、トラパットーニではないか。
ケルン戦はトラップの性格がよく出ていた。4バックはよほどのことではない限り、攻撃に参加しない。4枚だけでもトラップは不安なのだろう。マガート時代に突撃隊長だったマイスナーを中盤の底に下げて固定し、さらにティファートにも守りを優先させた。こういうわけだから、システムは4-1-3-2、もしくは5-3-2となる。強い相手だったらFWはさらに1枚減らされるだろう。
守備がしっかりしたからチーム状況が改善されたかって? いや、そうじゃない。反対だ。これほど守備を意識させられているチームが、これほど酷い守備をするとは理解の範囲を超えている。VfBの4バックは絶望的なまでのザルDFである。数的優位をまったく生かせないということは、守備の戦術が出来ていないのだ。
4人もフラットに揃えながら、相手のワンツー1本でいとも簡単に陣形を切り崩されるパターンが多すぎる。ケルン戦の2失点は、左右に大きく空いたスペースにボールを放り込まれ、DFが追いつけない間に中央へボールを返され、それがファインゴールにつながった。いずれもポドルスキーがお膳立てしたものだ。
4バックは右からヒンケル、バッベル、メイラ、マグナン。若いヒンケルは「昔の名前で出ています」のような低迷ぶり。バッベルは使い古されたガラクタ、マグナンのボールさばきは危なくて見ていられない。これでセンターにメイラがいなかったら、あっという間に失点の山を築くことになる。
MFはゲームを作れず、前線に切り込めない。パスの精度の低さは、2年前の絶頂期を知る人間が見たら「嘘だろ?」と思うほどだ。1対1の局面の弱さは筆舌に尽くしがたく、少ない人数で攻めるからスペースがあちこちに空く。
入団したばかりのトマソンに多くを期待するのは酷かもしれないが、トップ下でボールを捌けず、キープもできなければ攻撃につながらないではないか。シュトレラーとグレンケアはFWとしての賢さと恐さに欠けている。
こうして、どこもかしこも欠点だらけ。闘う男マイスナーは後方で歯軋りしているぞ。ヒルデブラントがチームに愛想を尽かすカウントダウンが始まったぞ。トマソンは移籍を後悔し始めたぞ――。そう、連想してしまいそうだ。
ハッキリ言おう。このチームに明るい材料はない。チームは落ちるところまで落ちて再出発するしかない。トラップ監督を起用したのは失敗だった。彼の時代はとっくに終わっている。
記者会見でトラップは、「皆さん、私に言いたいことがあるんでしょ? ダメな監督だねとか…」と自嘲してみせたが、自分の口から言えるのだったら一刻も早く退任してもらいたいものだ。
貧弱で、戦略がなく、出口が見えない退屈サッカー…。怒りを通り越して、呆れるしかないとはこのことである。輝いた時代を知っているだけに、余計にVfBが哀れなのである。
ケルンについても書いてみる。開幕戦は終了間際にラッキーなPKをもらって辛勝した。ポドルスキーの一瞬の速さはまだ本領発揮というレベルではなかった。マインツとの試合はテンポとガッツが優先し、中盤でテクニックを潰し合う展開となった。
「あ〜ぁ、つまらない」が正直な感想だった。しかし翌週のVfB戦はケルンの、というかラポルダー監督の戦術に舌を巻いた。
ダイレクトプレーとショートパスを繰り広げ、前に前にの特攻型ではなく、中盤まで意識的にパスを回して相手の陣形のスキを狙う戦法を取ったのだ。1点目はセンターサークル付近でボールを持ったポドルスキーが素早い判断で左サイドの前線深くにパスを送り、シュプリンガーのグラウンダーのクロスからフォイルナーが飛び込んでゴール。2点目もオフサイドラインを破ったポドルスキーが左から切り込み、鋭いクロスを送りシュトライトがゴール。VfBの浅くてフラットなDFの裏をかいた。
ポドルスキーは「代表レベルのトップコンディション」と高く評価された。ノーゴールに終わったものの、この日のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。
ケルンは豊富な運動量と適正なポジショニングで、イーブンのボールをことごとく奪っていった。スタンドからはその度にVfBの不甲斐なさに対する溜息が漏れた。
ラポルダー監督はテレビで見るよりずっと大きな体格の持ち主である。記者会見を終わって近づいてみたが、後ろ姿はまるでプロレスラーだった。体格だけではなく、この監督には人物の大きさが感じられる。つまりラポルダーには程度の差こそあれ、一種のオーラが漂っているのだ。弱小のビーレフェルトを1部に残留させた手腕を買われてケルンに移ったが、恐らく彼ならばチームにケガ人が続出しない限り、2部転落を味わわせることはないだろう。ケルンはいい監督といい選手に恵まれたものだ。
(次回に続く)
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