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「安藤正純の特別コラム vol.13」
一度は行こうぜ、シャルケ04!
安藤正純=文・写真
text & photograph by Masazumi Ando
2005年03月02日
バイエルンと激しいデッドヒートを繰り広げているシャルケ04は、日本で無名、ドイツで超有名なチーム。しかし日本にいると、シャルケの情報はほとんど入ってこない。「PSV」(ペーエスフェー)の発音は知っていても、「ヌルフィア」を「ゼロヨン」と呼んでいるところなんざ、情報量の差がきっちりと出ていることの証しだ。
これほど熱いチームを知らないのは残念であり、不幸である。なにが熱いかって、サポーターである。小さな町、しかもほとんどが昔からの住民で職住接近の環境にあるから、チームへの愛着は"異次元ワールド"。ちょっとやそっとで、彼らの世界には入り込めない。
シャルケの熱狂度をわかりやすく例えると、浦和レッズと阪神タイガースのファンが諏訪の『御柱祭り』に全員集合し、その騒ぎの中に初日の出の暴走族が参加するようなものだ。それが毎週あるのだ。
大きな大会にでも優勝すればバンザイ三唱を繰り返し、"ちょうちん行列"が始まることだろう。実際、97年にインテルを敵地で破ってUEFAカップに優勝した際は、町全体が「地響きに襲われ、有史以来の騒ぎになった」と報道された。そういうシーンこそ、日本のサッカーマスコミが伝えて欲しいところなのだが、ドイツがテーマだと興味が沸かないらしい。
私はパルクスタジアムで観戦したことがあるが、屋根が付いていない構造なのに観客の大声援が響き渡り、まるで周囲の空気が振動しているような体験だった。人間の声だけで、スタジアム全体がすっぽりと包まれたのだ。後にも先にも、あれほど人の声が恐ろしく感じたのは、ここだけである。
ブンデスリーガはどこでも立派なスタジアムと整備が行き届いた練習場を持っている。その中でもシャルケはピカイチである。あの『アレーナ・アウフ・シャルケ』(日本語に訳すと『シャルケに行こうぜスタジアム』となる)は欧州随一の最新設備を誇る。
周囲には人工芝1面を含めコートが4面。クラブハウスの2階に上がれば、ビールを飲みながら敷地全てが見渡せる。74年W杯用に作られた『パルクスタジアム』は、ちょうど新スタジアムとクラブハウスとを三角形で結ぶ位置にある。オタク族だったら、シャルケの聖地に立つだけで「世の中、360度すべてがサッカーなんだよね」と、泣いて喜ぶはずだ。
羨ましいのは、これだけの施設が広大な自然に囲まれていること。まるで「北の国から」の富良野状態。誰がここを歩いても絵になる、そんな雰囲気である。
チームは華麗な足技とか超スター選手と無縁。ひたすら勝つことだけを目指す典型的な北ドイツスタイル。だが今季はラングニック監督の見事な戦術が開花し、攻撃的で見ていて実に楽しいプレーを披露してくれている。
で、ここから先はシャルケのエピソードをちょこっとだけ紹介する。全部紹介したら、いくら行数があっても足りないからである。
パルクスタジアムの前は、『グリュック・アウフ』スタジアムだった。グリュック・アウフを訳せば「お達者で」となる。妙なネーミングだと思うだろうが、ワケがある。
ここは昔からの炭鉱町。山の男たちは毎日、地下深い仕事場へと下りていく。当然、死の危険性と隣り合わせの労働だ。そこで彼らはお互いの無事を祈って、「グリュック・アウフ」と挨拶する。これが名前の由来なのだ。
観客も当然そのことを意識していた。なにしろ自分の父、夫、兄弟がいま、足元のはるか下で厳しい仕事をしているのだから。そこで試合ではハーフタイムに照明灯の明かりが落とされた。場内アナウンサーはこう告げた。「いま、私たちの仲間は地下の暗い場所で石炭を掘っています。彼らの労苦を忘れないために、我々もひと時の暗闇を味わいましょう」
う〜〜ん、いい話だなぁ。
シャルケの選手は大元を辿ると、炭鉱夫に行き着く。チーム全員が同じ職場だったのだ。その流れがあるから70年代初め頃まで、炭鉱現場のヘルメットを被った労働者のスタジアム入場料は無料だった。いわば、ヘルメットが入場券代わりだったのだ。
クラブの帳簿が改竄されて税務調査が入ったときには、経理の責任者が「迷惑をかけたくない」との遺言を残して入水自殺をした。「シャルケ我が命」を行動に移した格好だ。
なんとまぁ、凄い話である。日本の企業戦士も顔負けだ。
ところで『アウフ・シャルケ』だが、ドイツに行くのだったら絶対お薦めのスタジアムだ。とくにビールが好きな人だったら必見の価値あり。
チームのスポンサーはビール会社の『Veltins』。そのためなのかどうかは知らないが、スタジアムの地下には巨大なビール醸造工場がある。そこからスタジアム中にビールのパイプラインが張り巡らされている。その距離、実に4000メートル。
スタジアム内には至る所にビヤースポットがあって、観戦客は好きなだけ飲める(もちろん有料ですよ)。従来のビヤ樽運搬方式だと、樽が空っぽになるたびに新品のと取り替えなくてはいけない。その手間と時間はけっこうムダである。そこでこうしたパイプラインを敷き詰めて、「いつでも、どこでも、好きなだけ」飲める設備としたわけだ。
今も昔も地下と縁が切れないところが実にシャルケらしい。
(次回に続く)
※管理人注: 本コラムは2月24日に安藤氏より御寄稿いただきましたが、管理人の諸事情により公開が約1週間遅くなってしまいました。
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