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「安藤正純の特別コラム vol.28」
極寒の夜に味わったPK戦突入への恐怖
安藤正純=文・写真
text & photograph by Masazumi Ando
2006年02月19日
1月中〜下旬、2週間の日程で真冬のドイツを取材してきた。サッカーが休みの時期なのに「なぜ」と思うのは当然だ。でも、このタイミングを外したら、取材できる日程が確保できない。どうしても出かけなければならい理由があったのだ。
前回のコラムでもご紹介したように、3月18日に日本経済新聞社より『06年W杯 体感マガジン』が出版される。そういうわけで、若い編集者とカメラマンを引き連れて、14日間で12都市を駆け巡ってきた。幸いにもすべてのスタジアムに入場ができ、町の様子もわかった。これらはすべて本誌で詳しく紹介している。読み応え十分、コラムも満載、ドイツサッカーへの愛情もタップリで、まさにこれまでになかったタイプのW杯関連本である。面白い本であることは1億%保証しますので、ぜひ1冊買ってくださいね(^_^)。
さて、いくら取材旅行といっても、そこはサッカーが好きな我々のこと。どうしても生で試合が見たいということで、帰国前々日に観戦スケジュールをねじ込んだ。旅の最後をミュンヘンで終えるようにしたので、ちょうどDFBカップ準々決勝のバイエルン・ミュンヘン対マインツ05の試合日と重なったのだ。
この季節、欧州はめちゃくちゃ寒かった。なにしろ64年ぶりの大寒波である。気温は毎日マイナスで、旅の半ばに当たるベルリンとライプツィヒは特に酷かった。なんとマイナス18度を記録した。
一口にマイナス18度といっても、このコラムを暖かい部屋で読んでいる読者の誰が想像できるだろうか。市内を流れる川の水がシャーベットになっている。冷蔵庫のない家庭は買ってきた肉と野菜を屋外に保存している(ほんと?)。ホームレスは路上で見事な氷の彫刻に化けていた(嘘!)。手袋と帽子がなければ、とてもじゃないけど歩けない寒さなのだ。私は5枚も重ね着した。
日本の天気予報ですごく腹が立つのが、「今日の東京地方は3度です。寒いですから体調に気をつけてください」とか何とか言うことだ。3度? これってプラス3度でしょ? 零下じゃないんでしょ?
コテコテの大阪弁だったら私はきっとこう叫ぶだろう。「ドアホ! 何いうてんねん。3度が寒いか? ワテはマイナス18度を経験してきたんやで。わかっとるか、オンドリャー?」
こんな極寒生活を数日味わったので、ライプツィヒからミュンヘンに到着した瞬間は、まさに別世界に降り立った気分になった。ライプツィヒはマイナス15度。ミュンヘンはマイナス2度。中央駅に到着した瞬間、私の身体は温度差12度に早速敏感に反応した。
「なんて暖かい町なんだ! コートなんて要らないよ。脱いじゃえよ」
再三、強調するがマイナス2度の世界である。人間、環境に慣れるとこれだけ大胆になれるのである。
数時間後にはアリアンツ・アレーナで試合観戦だ。昨年8月のブンデスリーガ開幕戦を取材して以来、わずか5ヶ月で12回目のアリアンツとなる。日本人の取材記者として私は間違いなく最多回数だろう。これは自慢できる記録だ。
この日のミュンヘンは夜になってますます寒くなっていった。朝のテレビで見た天気予報はこうだった。「本日のミュンヘン(もちろん市内中心部という意味)はマイナス6〜8度になるでしょう」。同じ番組で「ミュンヘン郊外の山(標高2000メートル)はマイナス2度」と予報していた。つまり我々がこれから行くアリアンツは、アルプスの山頂より寒いということになるのか。う〜ん、別世界だなぁ。(感心している場合か!)
で、試合である。結果はすでにご存知の通り。マインツはかなり頑張った。弾道の綺麗なシュートが決まって王者を脅かした。でもバイエルンのことだ。やっぱり最後は90分でカタをつけてくれるんだろうなと期待したが、これが実に甘い願望だった。同点のまま、なんと延長戦に突入したのだ。エンチョーセン? この寒空でまだ見てなきゃいけないのかよ…。
再三強調するが夜の10時半過ぎだから、おそらくマイナス6〜10度にはなっていたはず。この寒さの中、延長戦である。記者席は暖房が一切ない。レアル・マドリッドは10月のチャンピオンズリーグでも暖房が入っていた。サンチアゴ・ベルナベウでは記者席の上部(2階席の下)にヒーターが設置されていて、ここから下向きに暖熱が発散される。おかげで寒さを感じることはない。こういったホスピタリティーはぜひともドイツが見習ってほしい点だ。
そんな寒さの中、歯がガタガタと音を立て、手も足もブルブル震える。マイナス8度、いや、体感温度はマイナス15度くらい。メモをとるボールペンは、寒さのためかインクが出てこない。これじゃ、商売あがったりだ。
やがて最悪のシナリオを連想した。延長戦も引き分け→PK戦→5人で終わらずサドンデスに→双方11人以上を繰り出す……。このシナリオ通りに進んだら、試合終了は夜中の12時を過ぎる。シナリオはさらに続く。夜中の12時→記者会見→ホテルに戻るのは早くても午前1時。いや、待てよ。帰りの電車があるのかな?→明日の早朝はゲルト・ミュラーとのインタビューが入っている→遅刻したら一大事だ……。
それでもピサロのおかげでPK戦突入は阻止できた。私はピサロに今後2ヶ月間、「寒さから救ってくれてありがとう」と感謝するだろう。どうせ3ヶ月も過ぎれば忘れてしまうから、感謝はいまのうちにしておきます(^_^)。
でもゲーム自体は面白い展開だった。あれだけの寒さにもかかわらず、イスマエルだけは半袖でプレーしていた。偉い! 私は5枚だぞ。
なんだか、寒さばかりを強調するコラムになってしまった。たまにはこんなのもいいだろう。だって、どこかで感じたでしょう、寒いコラムだって…。
(次回に続く)
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